二次発酵で膨らまないと、焼成での伸びが乏しく、食感は詰まり気味になります。原因は一つではなく、環境要因と生地要因が絡み合います。
そこで本稿では、温度と湿度、酵母の活動、生地の張り、整形後のガス配置、段位置と予熱といった要素を、家庭のキッチンで測れる範囲に落とし込みます。写真がなくても判断できるよう、指で押した戻り、香り、表面の張り、底色、芯温などの指標を統一し、再発防止の順番を固定します。最後にそのまま使えるチェックリストも用意しました。
- 温度と湿度の帯を数値で共有します。
- 酵母の力と糖の残り具合を嗅覚と触感で判定します。
- 成形後の張りとガス配置を確認する手順を示します。
- 失敗時の復旧と次回の予防を分けて説明します。
パン二次発酵は膨らまないときの対処|初学者ガイド
二次発酵は成形後の生地に最終的な気泡構造を整える工程で、温度と湿度の環境制御、生地温の維持、酵母の残存活力、外皮の張りの4点が揃って初めて期待通りに膨らみます。一次でエネルギーを使い切った、成形でガスを抜きすぎた、あるいは二次環境が低温乾燥だった場合、膨らみ不足が発生します。ここでは全体の相関を俯瞰し、原因探索の優先順位を決めます。まず環境次いで生地要因の順で検証すると短時間で道筋が立ちます。
注意ボックス
一次で過発酵のまま二次へ入れると、膨らみは一瞬で止まり表面が皺になります。酸の匂いが強いときは、成形前にフロアタイムを短縮するか、次回は生地温を下げます。
Q&AミニFAQ
Q:二次で何倍にすれば良い? A:丸パンは見た目1.5倍弱、型パンは型九分目が基準です。
Q:時間は何分? A:温度と酵母量で変わります。指で押して半分戻る状態が到達の合図です。
Q:乾燥を避けるには? A:直置きでの風を遮り、上掛けや発酵器で湿度70〜85%を維持します。
手順ステップ:原因探索の優先順位
- 環境を測る:二次の庫内温度と湿度、生地温を記録。
- 成形の張りを触る:継ぎ目の密着と外皮のテンションを確認。
- 一次の終点を遡る:体積と香り、指跡の戻りを再評価。
- 配合を見直す:糖と塩、油脂の比率が酵母に及ぼす影響を点検。
- 復旧オプションを選ぶ:温度上げ、時間延長、ベーキングパウダー併用など。
環境起因の典型パターン
冬場の室温低下や庫内乾燥、予熱不足で段位置が高すぎるなどの要因で進みが鈍ります。温湿度計で実測し、70〜85%RHの湿度帯を目指します。
生地起因の典型パターン
一次過発酵、成形時のガス抜き過多、捏ね上げ温度の過不足、塩の入れ忘れなど。香りが酸に寄る、表面がざらつく、指跡が戻らないなどの兆候が出ます。
香りと触感で分かる進行度
甘い乳製品様の香りは適性域、酢のような鋭い匂いは過進行の合図。表面が乾いて張りが失われると内部の伸びも止まります。
二次が膨らまない場面では、時間を延ばす前に環境計測と張りの再確認を優先します。原因は複合ですが、順番を固定すると再現性が上がります。
温度湿度と生地温の設計:数値で整える発酵の土台

二次発酵の進行は、庫内温度と湿度、生地温の3点で説明できます。家庭では発酵器やレンジの発酵モード、湯を入れた耐熱容器などで代替できますが、実測なくして安定はありません。ここでは、二次の標準帯と外れたときの復旧手順を、温度と時間の交換比に落とし込みます。温度を上げすぎないことが、香りとボリュームの両立に直結します。
ミニ統計:推奨レンジ
- 庫内温度:28〜35℃目安。甘味重視は下限寄り、急ぎは上限寄り。
- 湿度:70〜85%。乾燥は表皮の裂けと止まりの原因。
- 生地温:二次開始時26〜28℃が安定。24℃以下は鈍化しがち。
比較ブロック:低温長時間と高温短時間
低温長時間は香りが豊かで締まりが良い反面、スケジュール管理が必要。高温短時間は速いが過進行と乾燥のリスクが増えます。目的に応じて選択します。
コラム
冬場は発酵器がなくても、オーブンを30秒だけ予熱して停止、湯を張った容器を入れると湿度も補えます。温度計で過熱しないことを確認しましょう。
温度と時間の交換比
28℃基準を1とすると、32℃でおよそ0.7〜0.8倍の時間に短縮されます。上限に寄せるほど乾燥と過進行の管理が必須です。
湿度の作り方
濡れ布やラップのドーム、湯を張った耐熱容器で湿度を確保。直風を避け、表面が乾かないように覆いを工夫します。
生地温の着地
本捏ねの捏ね上げ温度が高すぎると二次手前で疲弊し、低すぎると二次が鈍化します。手の温度やミキサーの発熱を織り込み、目標に合わせます。
酵母の活力と糖の残量:動かす燃料を見極める
酵母が二次で働くには糖と環境が必要です。一次で糖を使い切った、砂糖や塩の比率が極端、あるいは油脂の包み込みが早すぎた場合、二次でガスが出にくくなります。ここでは配合の影響と、匂いと触感でできる即席の活力判定を示します。甘い香りとゆるい抵抗は適正進行のサインです。
ミニ用語集
- 残糖:酵母が二次でも使える糖分。砂糖だけでなくデンプン分解由来も含む。
- 耐糖性:砂糖が多い配合でも働く性質。耐糖性酵母の使用で改善。
- 浸透圧:糖と塩が高いと水が奪われ、酵母の働きが鈍る現象。
- 活性化:酵母を温水で溶き起こす工程。ドライは指示温度で行う。
よくある失敗と回避策
失敗1:砂糖が多いのに通常酵母を少量。→回避:耐糖性を選ぶか、一次を低温長時間にして疲弊を防ぐ。
失敗2:塩の入れ忘れ。→回避:本捏ね時にチェックリストを読み上げ確認。
失敗3:油脂を早く入れすぎ。→回避:結合後に後入れで骨格形成を優先。
手順ステップ:活力の即席判定
- 生地を軽く押し、戻りが遅くても張りが残るか確認。
- 香りを嗅ぎ、甘さが感じられるかチェック。
- 指に付く生地の粘りが重く酸が強ければ、過進行または疲弊。
配合による進行差
リーン配合は二次が軽快で、型の伸びも得やすい。リッチは二次がゆっくりで、過進行と乾燥に敏感です。温度を下げ時間で稼ぐと香りが整います。
酵母量の調整幅
標準帯を基準に、気温や配合で±20〜30%の範囲で調整します。高温期は減らし、低温期は増やします。
膨らまない根に「燃料不足」が潜むことは多く、配合と一次の終点で決まります。香りと張りを毎回記録しましょう。
成形とガス配置:張りを作り内部を満たす技術

二次発酵の膨らみは、成形時の外皮の張りと内部ガスの配置で7割決まります。粉打ちが多すぎる、継ぎ目が甘い、麺棒で層を潰したなどの操作ミスは、そのまま二次の止まりに直結します。ここでは丸パンと型パンを中心に、張りを高めつつ内部を満たすための手順と判断基準を整理します。張りは強すぎても弱すぎても失速します。
ミニチェックリスト:成形の直前直後
- ベンチは15〜25分で筋を落ち着かせる。
- 粉打ちは必要最小限で、表面は滑らせない。
- 継ぎ目は床に密着、閉じを念入りに。
比較ブロック:丸パンと型パン
丸パンは表皮の均一な張りでドームを作り、型パンは面と角の張りを分配します。型は九分目で止め、オーブンスプリングに余力を残します。
手順ステップ:張りの作り方
- 分割面を内側にして丸め、表皮に均一なテンションを与える。
- 継ぎ目を下にして休ませ、筋が解けるまで待つ。
- 最小の粉で成形し、表面を乾かさずに二次へ。
ドリュールと乾燥
二次途中の塗りは表面を重くし進行を妨げます。焼成直前に素早く行い、乾燥は覆いで防ぎます。
スコアリングの要否
丸パンは不要、型パンやバタールはガス逃しと伸びの誘導に有効です。切り込みは浅く素早く。
張りとガス配置は二次の伸びの前提です。粉打ちと閉じの緩みが止まりの元凶になりやすい点を意識しましょう。
復旧と見極め:膨らまない現場でできる対処
すでに二次で膨らみが鈍いと感じたら、時間延長だけに頼らず、温度湿度の調整と張りの再構築を試みます。過発酵リスクを避けつつ、焼成での伸びしろを残すための選択肢を、失敗の兆候別に提示します。復旧は早いほど成功率が上がるため、合図を逃さない観察が要です。
よくある失敗と回避策
兆候:表面が乾いて皮が張る。→対処:湿度を85%まで上げ、覆いを追加。霧吹きは最小限で。
兆候:酸の匂いが強く皺が出る。→対処:見切って早めに焼成、次回は一次短縮と低温管理。
兆候:ほぼ動かない。→対処:庫内温度を3〜4℃上げて10〜15分だけ延長。
Q&AミニFAQ
Q:時間を倍にしても良い? A:香りと張りが崩れるため推奨しません。温湿度の是正を優先します。
Q:ベーキングパウダーを使う? A:小型の甘味パンでは応急に有効ですが、風味は変わります。
Q:打ち直しは可能? A:二次からの再成形は荒れやすく、基本は焼き切る判断です。
手順ステップ:現場での微調整
- 温湿度を再計測し、目標帯へ近づける。
- 表面乾燥があれば覆いを増やし直風を遮断。
- 到達サイン(指跡半戻り)で迷わず焼成へ移行。
焼成への切り替え判断
指跡がほとんど戻らず皺の兆候があれば、これ以上の発酵益は小さいため焼成へ。段位置を一段下げ下火を確保します。
小型成形での救済
小さな丸やロールは復旧の余地が広く、温度の立ち上げで持ち直すことがあります。大型型パンは早めの見切りが鍵です。
復旧の主役は温湿度と時間の再設計です。延長一択では香りと食感を損ねやすい点を覚えておきましょう。
再発防止のルーティン:記録とチェックで安定化する
一度の失敗を次へ活かすには、観察の言語化と記録が有効です。温度湿度のログ、生地温、香りのメモ、写真代わりの数値化が揃えば、季節や配合が変わっても二次の安定は高まります。ここでは、誰でも続けられる簡易な記録テンプレートと、仕込みから焼成までのチェックポイントを提示します。毎回同じ順で確認するだけで精度は伸びます。
ミニ統計:記録で改善した例
- 冬季の二次失速が、庫内実測で30℃→28℃一定化により再発ゼロ。
- 粉を変えた週の鈍化を、吸水−2%で解消。
- 型パンの天井割れを、九分目止めと段位置下げで抑制。
Nメモコラム
写真の代わりに「指跡の戻りを5段階評価」し、香りを3語で表現しておくと、次回の到達判断が早くなります。数値と語の併用が効きます。
有序リスト:二次前チェック(毎回同じ順)
- 庫内温度と湿度を測り、目標帯へ調整。
- 生地温を測り、目安26〜28℃に着地。
- 成形の閉じと張りを指でなぞり確認。
- 覆いと直風対策をセット。
- 到達サインを決めてからスタート。
家庭オーブンでの下火確保
厚手天板ごとの予熱、段位置一段下げ、予熱時間の延長で下火を補強。焼成の伸びが改善し、二次のわずかな不足を補えます。
季節の切り替え点
春秋は日中で温度差が大きく、夕方のキッチンは低温乾燥になりがちです。仕込み時間と発酵帯をずらして適応します。
再発防止の鍵は、計測と同じ順のチェックです。小さな手間が、二次の不確実性を着実に減らします。
まとめ
二次発酵が膨らまない問題は、環境(温度湿度生地温)と生地(酵母の活力張りガス配置)の交差点で起こります。時間延長に頼る前に、温湿度の是正、生地温の確認、成形の張りと閉じの見直しを優先しましょう。到達サインは指跡半戻りと表面の艶、甘い香りです。復旧は早期判断が肝で、再発防止は記録とルーティンが近道です。家庭オーブンでも、数値と手触りをそろえれば二次の安定は実現できます。


