中種法は粉と水と酵母の一部を先に仕込み、香りと柔らかさを引き出す製法です。直接法より工程は増えますが、一次発酵の安定、老化の遅延、日持ちの向上が期待できます。家庭オーブンでも再現しやすいように、狙いの生地温度や中種の成熟度を言語化し、写真がなくても判断できる「触感と数値」の両輪で整理しました。配合は汎用を基準に、油脂や砂糖が多い配合でも破綻しない手順へ寄せます。読み終えたら、今日の一回を確実に改善できるチェック項目を手元に残せるはずです。
- 中種の含水と酵母量を配合表で把握します。
- 成熟度は体積変化と香りの二点で評価します。
- 本捏ねでは塩と油脂の入れどころを固定します。
- 焼成は芯温と底色の2軸で到達を判断します。
パン中種法はここを押さえる|やさしく解説
中種法の骨子は「先に小さな生地を作り、熟成で風味と伸展性を整えてから、残りの材料と合わせる」ことです。先行して作る中種は粉の30〜60%を占めるのが一般的で、熟成時間は温度と酵母量で決まります。直接法に比べて工程が増える分、仕込み時点での温度設計と成熟指標の共有が安定化の鍵です。ここでは、家庭環境のばらつきを吸収するための決め事を最初に定め、迷いを減らします。生地温・熟成度・本捏ねの順序の三点を揃えれば、風味は伸び、発酵の暴走は抑えられます。
手順ステップ:中種法の標準フロー
- 中種の計量と混和:粉+水+酵母の一部を軽く捏ねる。
- 中種の熟成:温度管理下で体積と香りを見極める。
- 本捏ね:残りの粉水、塩、砂糖、油脂を順に合わせる。
- 一次発酵:温度安定を優先し、生地の張りを保つ。
- 分割丸めベンチ:筋を落ち着かせ成形を容易にする。
- 成形二次発酵:張りを維持しつつ内部を満たす。
- 焼成冷まし:下火と芯温で到達、網で放熱して香りを締める。
注意ボックス
中種の過熟は本捏ねでの生地切れを招きます。甘酸の香りが強く、表面がしぼんだら行き過ぎの合図。予定時間より指標を優先します。
Q&AミニFAQ
Q:直接法との違いは? A:風味・伸び・老化耐性が増し、一次の安定感が上がります。
Q:中種は何%? A:粉の30〜60%が扱いやすい帯。風味重視で増やし、時間がなければ減らします。
Q:冷蔵熟成は必要? A:香りを伸ばしたいときに有効。温度変化は緩やかに行います。
直接法との比較で見える利点
グルテンが先に整うためガス保持が高まり、焼成での伸びが安定します。糖分と有機酸の生成により香りと日持ちが向上します。
家庭オーブンへの適性
下火が弱い環境でも内層の伸びが得やすく、焼き足りを避けやすい利点があります。段位置と予熱で補強するとさらに安定します。
中種の規模と時間のトレードオフ
中種比率が大きいほど香りは出やすい一方、過熟リスクが増えます。スケジュールに合わせて比率と酵母量を調整します。
温度設計の重要性
中種段階での温度ぶれは最終生地まで響きます。室温が高い日は水温を下げ、冷蔵を活用して成熟を合わせます。
全体像を押さえ、中種の成熟と本捏ねの順序を固定すると、毎回の仕上がりの誤差が小さくなります。
配合と中種設計:粉比率と酵母量を数値で組み立てる

中種法の配合は、粉のどれだけを先に仕込むか、酵母をどれだけ前倒しで入れるか、そして含水をどう割り振るかで性格が決まります。ここでは家庭用の強力粉で扱いやすい帯を起点に、リッチ配合・リーン配合の双方に延長可能な目安を示します。加える根拠と減らす根拠を並べ、調整順序を固定化します。
表:標準配合の目安(粉100%換算)
| 項目 | 全体 | 中種 | 本捏ね追加 |
|---|---|---|---|
| 粉 | 100% | 30〜60% | 残り |
| 水 | 60〜70% | 中種に40〜60% | 残りで調整 |
| 塩 | 1.8〜2.2% | 入れない | 全量ここで |
| 砂糖 | 0〜12% | 0〜一部 | 残り |
| 油脂 | 0〜8% | 入れない | 全量ここで |
| 酵母(IDY) | 0.5〜1.2% | 全量の60〜100% | 残り |
ミニチェックリスト:配合調整の順序
- ①吸水を±2%で合わせ、硬軟を先に決める。
- ②塩を±0.2%で締まりを微調整する。
- ③甘味と柔らかさは砂糖・油脂を合計±2%で調整。
コラム
中種に砂糖を入れるかは設計次第です。香りを伸ばす目的なら2〜4%を中種へ、酵母の過進を避けたいときは本捏ねへ回します。
中種比率の決め方
40%前後は扱いやすい中庸です。香りを強調したいときは60%まで、時間がない日は30%まで下げて酵母量で補います。
酵母の前倒し量
全体の60〜100%を中種側に入れます。高温期は過熟しやすいので60〜80%に留め、低温期は多めにして成熟を促します。
含水の割り振り
中種に水の半分以上を入れると緩やかに成熟します。手ごねなら本捏ね側の水を多めにして操作性を確保します。
中種の混和と成熟管理:体積と香りで到達点をそろえる
中種の出来は最終生地の伸展性と香りを左右します。混ぜすぎずに結合させ、温度を一定に保ちつつ体積と香りで熟成を判断します。過熟は表面のしぼみや鋭い酸の匂いに現れ、若過ぎは甘い香りの不足と伸びの悪さに出ます。ここでは、温度帯と時間の目安に加え、家庭でも使える容器と観察のコツをまとめます。時計より状態を合言葉に、到達点を言語化しましょう。
ミニ統計:成熟指標の目安
- 温度:冷蔵4〜8℃で12〜24時間、室温20〜26℃で2〜6時間。
- 体積:仕込み比で1.5〜2.5倍。中央に気泡の穴が整う。
- 香り:乳製品様の甘い香り→微かな酸→強い酸の順で進む。
注意ボックス
表面が持ち上がってからしぼんだ状態は過熟のサイン。本捏ねで生地が切れやすくなるため、次回は温度を下げるか酵母を減らします。
手順ステップ:観察のポイント
- 透明容器に目盛りを付け、仕込み高さを記録する。
- 30分ごとに香りを一瞬だけ嗅ぎ、変化をメモする。
- 体積が規定に達し、香りが甘く落ち着いたら本捏ねへ。
冷蔵・室温の使い分け
香りを伸ばしたいときは冷蔵長時間、急ぐなら室温短時間で進めます。切り替え時は温度差を緩やかにして酵母を守ります。
中種の硬さ調整
硬めは扱いやすく過熟しにくいが香りは控えめ、柔らかめは香りが出やすいが管理が難しい。配合とスケジュールで選びます。
成熟の到達点を「体積×香り」で決め、予定時間に縛られない判断を身につけると、次の工程が安定します。
本捏ねの順序と生地温:中種を損なわず骨格を組み直す

本捏ねでは中種の伸展性を生かしつつ、塩と油脂を適切なタイミングで加えて骨格を整えます。中種が過熟なら塩を早めに入れて締め、若いなら捏ねでつながりを補います。ここでは順序と生地温の管理、加水の微調整、そして過伸展を避ける休ませの入れ方を示します。生地温26〜28℃を狙い、手の熱やミキサーの発熱を織り込んで水温を決めます。
比較ブロック:直接法の捏ねとの違い
直接法は捏ねで一気に骨格を作るのに対し、中種法は既存の骨格を壊さず組み直します。強い叩き付けより、短時間の整えと適切な休ませが有効です。
ミニ用語集
- 捏ね上げ温度:本捏ね終了時の生地温。26〜28℃目安。
- オートリーズ:粉水のみで休ませる前処理。本捏ね前に採用可。
- パンチ:発酵途中の層整え。中種法でも一度が基本。
- フロアタイム:一次発酵の時間帯。温度と体積で管理。
有序リスト:本捏ねの手順
- 中種と残りの粉水を合わせ、軽く結合させる。
- 塩・砂糖を入れて伸展を確認、必要ならここで短く休ませる。
- 油脂を最後に入れ、表面が滑らかに整うまで。
- 生地温を測り、足りなければ休ませで整えて一次へ。
水温の逆算
室温と粉温が高い日は水温を下げ、低い日は上げます。ミキサー使用時は発熱分を2〜4℃見込みます。
過伸展への対処
光沢が消え、べたつきが増えたら行き過ぎ。5〜10分の休ませで結合を回復させ、捏ねを打ち切ります。
順序を固定し生地温を狙えば、中種の利点を最大化できます。強さより整えが成果を生みます。
一次発酵・成形・二次発酵:張りを保ち内部を満たす導線
中種法は一次発酵が整いやすい一方、張りを失うと二次でだれて焼成の伸びが鈍ります。一次は体積と香りで進行を管理し、ベンチで筋を落ち着かせ、成形で外皮の張りを確保します。二次発酵は“見た目より張り”で止め、焼成に余力を残します。型パン・丸パン・菓子パンで指標が異なるため、ここで具体の止めどころを共有します。
ベンチマーク早見:進行指標
- 一次:生地温26〜28℃、体積1.5〜2倍弱、指跡がゆっくり半分戻る。
- 二次:丸パンは指跡が半分戻る、型パンは型九分目で停止。
- 香り:甘い香りが立ち、酸は微か。鈍い匂いは過発酵の兆候。
事例引用
夏場に二次で過発酵が続いたが、一次を締めて止め、成形で粉打ちを減らしたところ、焼成の伸びと底色が揃った。
無序リスト:成形のコツ
- 継ぎ目は床に密着、外皮の張りで気泡を配置する。
- 粉打ちは最小限。滑りは張りを壊す。
- ベンチは15〜25分。短すぎると裂け、長すぎるとだれる。
型パンと丸パンの止めどころ
型パンは焼成内伸びを見込んで九分目で止めます。丸パンは指跡が半分戻る程度が基準です。
スチームと保湿
前半はスチームで膨張を助け、後半は乾燥へ切り替えます。覆いで湿度を保ち、霧は控えめにします。
張りを維持して焼きへ渡すと、内層の伸びが活きます。一次と二次の境目は香りと戻りで判断します。
焼成と仕上げ:下火と芯温で到達を決める
焼成は下火と芯温の管理で決まります。家庭オーブンは上火先行になりがちなので、天板や石を十分に予熱し段位置を一つ下げます。色と焼けは同義ではありません。底色・打音・芯温の3点で到達を確認し、取り出し後は網で放熱して香りを締めます。ここまでの蓄積を崩さないための最後の基準を明確にしましょう。
ミニ統計:焼成到達の目安
- リーン系の芯温96〜98℃、リッチ系は94〜96℃。
- 取り出し後の余熱上昇は0.5〜2.0℃。
- 底色は薄い飴色〜琥珀色、打音は乾いた響き。
比較ブロック:下火補強の有無
補強なしは底が白く内部が重くなりやすい。厚手天板や石で予熱すると同温でも通りが良く、香りの抜けも改善します。
注意ボックス
色先行で焼き続けると乾燥が進み香りが痩せます。芯温と底色、打音のセットで即断し、粗熱を適切に抜きます。
段位置と予熱
一段下げると下火が効きやすくなります。予熱は天板ごと十分に。開閉回数を減らして温度降下を抑えます。
冷ましと保管
焼き上げ後は網で放熱し、温かさが抜けたら袋で保湿。中種法は老化が緩やかなので翌日も柔らかさが続きます。
下火と芯温で到達を決め、冷ましまでを工程と捉えると、香りと食感が安定します。
まとめ:中種法は、先に仕込む小さな生地の成熟を「体積×香り」で見極め、本捏ねで塩と油脂の順序を守り、生地温を26〜28℃に着地させることが土台です。一次は体積と戻り、二次は張りを指標に止め、焼成は下火と芯温で到達を判断します。配合は中種比率40%前後から始め、スケジュールに応じて酵母と温度を調整しましょう。工程を数値で言語化し記録することが、家庭オーブンでも香りと日持ちを両立させる最短距離です。


